▼ マイナス金利のインパクト
日本銀行は2016年1月29日(金)12時39分、金融政策決定会合の結果、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を公表しました。主なポイントは次の2点です。
(1)マイナス金利の導入
金融機関が日銀に預けている当座預金に対しては、次の金利を適用
①基礎残高…「2015年1月~12月積み期間」の平均残高相当部分に0.1%
②マクロ加算残高(所要準備額等)…ゼロ%
③政策金利残高…上記①②を上回る部分にマイナス0.1%の金利
⇒2015年9月末時点で預金取扱機関(銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、JAバンク等)が保有する日本銀行預け金残高は234兆円(※速報値ベース)ですが、いきなりその全額にマイナス金利を適用する訳ではなく、あくまでも既往の残高に対しては従来の0.1%という付利を継続するものです。
(2)量的質的緩和政策の維持
ただし、日銀は「量的質的緩和政策」を維持する考えを示しています。つまり「年間80兆円に相当するペースでのマネタリーベースの拡大」が続くことになります。したがって、日銀が市場で国債等を買い占めてしまうことで一般の金融機関が買えなくなる債券相当部分について、仮に日本銀行当座預金に積み上げることを計画していた金融機関にとっては、上記(1)の「マイナス金利」が大きく響いてくることになります。
▼ それでも日本から資金は逃げられない
一般に、中央銀行の緩和政策は、資金需給面からは「金融市場への資金供給量を増やすことで資金需要を喚起する目的にある」と説明されることが多いです。しかし、日本の場合、資金循環統計から判明するだけでも、例えば「非金融法人企業」の借入残高は1997年12月時点の597兆円と比べると、2015年9月時点で420兆円と、実に20年弱の間に180兆円近く減少しています。
日本国内の資金循環(=お金の流れ)を見ると、銀行を初めとする預金取扱機関の重要性が極めて高いという特徴があります。家計資産総額は2015年9月末時点で1684兆円にも達していますが、その半額以上に相当する887兆円が現金・預金です。また、非金融法人企業が手元に持っているお金(現金・預金)残高も257兆円に達しており、結果的に預金取扱機関に預け入れられているお金(現金・預金)は1338兆円という巨額なものです(日本のGDPの約2.5倍。ただし、この金額には譲渡性預金が含まれており、また、系統金融機関の預け金など、ダブル・カウントになっている部分もあります)。
つまり、今回、日銀がマイナス金利を導入したとしても、日本国内で運用できなくなった資金が大量に海外に出ていく(=キャピタル・フライトが発生する)というものではありません。預金取扱機関にとって、負債の大部分が日本円であるため、「円金利が低い」からといって、無制限に「外貨建債券」(=為替リスクのある資産)に投資できる訳ではないからです。会計上も金融規制上も、異なる通貨での資金運用には何かと制約があります。
今後のマイナス金利導入によって、金融機関が貸出の拡大を図る、という単純なものではないことは間違いありません。金融機関の投資行動としては、日銀超過預金のマイナス金利をできるだけ避けつつ、ヘッジ付での外貨投資、ファンド投資などに分散するという、これまでの動きが続く、と考えるのが自然でしょう。