英国が欧州連合(EU)から離脱するかどうかを問う国民投票の開票作業が現在実施されており、当記事執筆時点で、僅差ではあるものの、ほぼ「離脱賛成派」が過半数を制するとの見通しが立ちました(根拠としては、例えばBBCのウェブサイト “EU REFERENDUM” が参考になると思います)。

ところで、これにより「ヨーロッパ」の定義は変わるのでしょうか?というよりも、そもそも論として、「欧州の範囲」については、どう見るかによって全く異なりますが、当社では「欧州の範囲」を、次の三つの観点から分けるのが適切であると考えています。

(1)国境を意識せず自由に行き来できる範囲
(2)政治連合としての「欧州連合(EU)」に加盟している国
(3)共通通貨である「ユーロ」を採用している国

この(1)~(3)については、同一ではありません。

欧州では「シェンゲン協定」という協定が発効しており、わが国の外務省のウェブサイトによると、2013年7月時点で26カ国が加盟しています。この「シェンゲン協定」に加盟している国同士では、原則としてパスポート・税関等のチェックなしに、人々が自由に行き来できます。次に、政治連合としての「欧州連合(EU)」です。EU駐日代表部のウェブサイトによると、現在、28カ国が加盟しています。そして、三つ目の観点は、同じ通貨・ユーロを使っているかどうかです。同じくEU駐日代表部ウェブサイトによれば、「ユーロ圏に加盟」している国は19か国です。

英国が「属している」のは、このうちあくまでも「(2)欧州連合(EU)」の部分のみです。例えば英国は「シェンゲン協定」に加盟していませんので、報道等で「英国がEUから離脱すれば、例えばフランスから英国に入国するときにパスポート・チェックが復活してしまう」といった内容を見掛けることがありますが、これは明確な間違いです。正しくは「英国はもともとシェンゲン協定に加盟していないので国境審査には影響がない」、というものです。同様に、英国は共通通貨・ユーロを利用していませんので、英国がEUから離脱すればユーロ圏が縮小する、といった議論も誤りです。

ただ、欧州で現在懸念されているのは、「離脱ラッシュ」です。例えば、英国がEUから離脱すれば、英国に続いてEUから離れる国が出てくるのではないか、との懸念です。そして、次にあるのが「独立リスク」です。英国自身も数年前にスコットランドの独立を巡る住民投票が行われたばかりですが、ほかにもスペインではカタルーニャ州、イタリアでは北部諸州、ドイツではバイエルン州、といった具合に、(温度差はありますが)各国で独立に向けた住民投票の動きが活発化するかもしれません。

なお、業務資料集として、当社では「EUの範囲」に関する補足資料を作成したいと考えております。

2016/06/24 15:05:55 追記
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